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ゲーミフィケーションの世界トレンドから学ぶ! 多様な活用事例と課題
文責:マーケティング・コミュニケーション課
昨今、「ゲーミフィケーション」という言葉が注目されています。日本では、ゲーム的な仕掛けを用いて、学習者や顧客のモチベーションを高める手法として話題になっていますが、世界のトレンドはどのようになっているのでしょうか。
「世界のゲーミフィケーションの市場は2015年から拡大して、コロナ禍でさらに勢いをつけた」と語るのは、立命館大学でゲーミフィケーション(シリアスゲーム)の研究を行うシン・ジュヒョン助教。シン先生によれば、海外のゲーミフィケーション市場においては、日本ではまだ見られない多様な活用事例が見られるといいます。世界のゲーミフィケーション市場の状況と、注目の活用事例、そして今後の展望について、シン先生に詳しく伺いました。
< プロフィール >

立命館大学 衣笠総合研究機構 助教
シン・ジュヒョン
韓国ソウル生まれ。2025年4月から現職。2020年9月、立命館大学大学院先端総合学術研究科一貫制博士課程修了。博士(学術)。専門はゲーム研究、地域研究。社会文化的観点から、シリアスゲーム、ゲームをプレイする「場」、ゲーム・アクセシビリティやインディーゲームについて研究している。2024年4月、著書『シリアスゲームの社会的受容を問う――韓国の事例にみる「ゲーム」と「教育」の社会文化的研究』(福村出版)を上梓。科学技術融合振興財団第10回FOST新人賞、日本デジタルゲーム学会2021年度若手奨励賞受賞。
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■ グローバルで広がる「ゲーミフィケーション」市場
グローバルのさまざまな産業において、ゲームの仕組みや要素を活用するゲーミフィケーションの活用が普及しています。2025年現在の市場規模は261.9億ドルで、2029年にはその2倍以上の700億ドルを超えると予想されています(下図)。こうしたデータから見ても、ゲーミフィケーションの市場が拡大傾向にあることは間違いありません。
シン先生によれば、グローバルなトレンドとしては、「ゲーミフィケーションは2015年から拡大した」ということです。拡大の背景には、2015年ごろからインディーズゲーム(大手企業ではなく個人や小規模なクリエイター集団が制作したゲーム)が流行し、ゲームの種類が一気に拡大したことが挙げられます。これにより、単なる娯楽を目的としたものだけでなく、社会課題の解決や学習につながるゲームの制作も多く行われ、ゲーミフィケーション普及のきっかけとなりました。
加えて、近年さらにゲーミフィケーション市場が拡大するきっかけとなったのが、新型コロナウイルスの感染拡大です。「コロナ禍において人々が対面で会うことができなくなったことで、オンラインで実施されるイベントが増えました。そのなかで、ゲームの要素を活用したコンテンツも多く見られました」(シン)
対面でのアクティビティが制限され、デジタル環境の整備が急速に進んだことで、グローバル・日本問わず、ゲーミフィケーションの活用が加速しました。特に教育分野では、「オンライン授業やデジタルな学習環境が当たり前になったことで、ゲーミフィケーションの活用が世界的に増加した」といいます。さらに昨今では、没入感やインタラクティブ性を大きく高められる傾向にあります。これは、AIやXRといった新たなテクノロジーも目覚ましい進化が見られることも影響しているようです。
こうした動向を踏まえ「新しい技術とともにゲーミフィケーションは多様化し、人々の生活・ライフスタイルまで変えていく。実際に社会に貢献できるプラットフォームとして役に立つ」と、シン先生は指摘します。つまり、ゲーミフィケーションは教育などの一部の産業に留まらず、世の中のあらゆる産業や社会課題など、多様な分野に活用できるようになってきたと言えます。
グローバルと一括りに話しても、もちろんその浸透度合いについては、まちまちです。「ゲーミフィケーションの開発や関連研究がもっとも盛んなのはアメリカで、その次がカナダとヨーロッパ。最近では中国でも研究が増えていて、ゲーミフィケーションを扱う企業も登場しているので注目しています。」(シン)
では日本はというと、海外との浸透度には大きな差があるようです。ここでGoogleトレンドのデータを見ると、その様子が一目瞭然です。「Gamification(英字)」の検索人気度が2010年以降大きく伸びているのに対し、日本語の「ゲーミフィケーション」は、2011~12年ごろに少し山ができてから、それほど検索数は延びていません(下図)。
では、日本以上に活用が盛んな世界の各国では、ゲーミフィケーションをどういった産業で、どのように取り入れているのでしょうか。
■ 世界のゲーミフィケーショントレンド
シン先生は、ゲーミフィケーションが活用されている約20地域を訪れ、フィールドワークや調査を行ってきました。その調査結果から、地域ごとのゲーミフィケーション活用の特徴を解説してもらいました。
対象地域を、北米、欧州、東アジア、中南米・アフリカの4つに分けると、以下のような特徴が見えてくるといいます。
エリアによっても、活用度合いや特徴も大きく異なります。活用が最も盛んなのはアメリカです。研究機関による活用のみならず、商業的な活用も多くあります。一方で、EUは研究機関や政策的なプロジェクトによる活用などが主流とのことです。
今回は、もっとも活用が盛んなアメリカの実態を中心に紹介します。
アメリカでは、ゲーミフィケーションという言葉が、学校や企業で当たり前に使われているため、一般の認知度も高いです。例えば学校では、学生にコインやバッジなどを授与して学習のモチベーションを向上する取り組みが、小学校から高校まで一般的に行われています。そのため、学生や保護者はゲーミフィケーションになじみがあることがほとんどです。
また企業では、GAFAMを中心としたIT企業だけではなく、あらゆる業界でゲーミフィケーションの活用が進んでいます。メーカー企業などの事業会社も、自社の製品・サービスをより使ってもらうため、顧客満足度を高める仕掛けとして、ゲーミフィケーションを取り入れています。そのほか、新人教育や業務効率化など、社内向けの施策にも活用されています。最近ではゲーミフィケーションのプログラムを専門に提供する企業が増えていることからも、ゲーミフィケーションの認知度の高さがうかがえます。
さらにアメリカでは、大学や研究機関によるゲーミフィケーション研究が盛んで、産学連携が進んでいるのが特徴です。例えば、ミネソタ大学デザイン研究所が地域と連携して2003年に行った「Big Urban Game」という取り組みがあります。これは、二つの都市の市民が、実際の交通条件を踏まえてどのような経路で移動できるのか考え、投票によって物理的な巨大駒を動かすゲームです。都市環境や公共空間のデザインについて、市民の幅広い視点を集めることを目的に実施されました。また、2011年にジョージア州メイコンで実施された「Macon Money」は、地域経済の活性化とコミュニティ形成を目的とした市民参加型ゲームです。
シン先生はこういった事例から「アメリカでは以前からこのようなゲーミフィケーションの取り組みが長年行われてきたことがわかる」と説明します。
もちろん、昨今もゲーミフィケーションの事例は次々と登場しています。ゲームデザインの研究者リンゼイ・グレイス教授は、社会課題への意識を高めるためのゲームを多く手がけています。フェイクニュースを見極める力をつけるクイズゲーム「FACTITIOUS」や、新型コロナウイルスについて正しい知識を得るための「Covid-19 Trivia」といったゲームなどです。
また、シン先生が注目している地域の一つがアフリカです。
「特に南アフリカでは、スマホの普及により、最近ではモバイルを使った学習意欲の喚起を目的としたゲーミフィケーションコンテンツが非常に人気を集めている状況です」(シン)
アフリカでは、教育インフラが十分に整備されていない環境であるにも関わらず、新たなテクノロジーが活用されゲーミフィケーションを導入する機会が増えています。その浸透の速度も注目の理由の一つです。
その他、中南米も他国と比べて活用の数はまだ少ないものの、特にブラジルで教育分野におけるゲーミフィケーションの取り組みが増えていて、関心が高まっているといいます。
上記の通り、先進国のみならず、発展途上国においてもゲーミフィケーションは注目が高まっている分野と言えそうです。
■ ゲーミフィケーションの活用分野
研究結果データベース「ZeybekとSaygi(2024)」を基に、ゲーミフィケーションを活用している研究分野を見ると、プログラミング・言語教育・工学系などがそれぞれ20%程度とITや数学的なアプローチが非常に多いです。ただ、近年は医療やビジネスに置ける活用も増加傾向にあり、10%程度と数値にも現れています。
プログラミング・言語学習・工学系に関しては、学習者のモチベーションを高めたり、学習を効率化したりする目的で導入されています。大学の授業内で取り入れられたり、個人で個別学習を進められるアプリが開発されたりしています。
また、医療分野に関しては治療目的ではなく、予防や健康習慣の増進のためにゲーミフィケーションが活用されることが多いです。健康状態を改善するためのトレーニングやリハビリなどを継続することで、アプリ上で植物が育つ、といったゲーミフィケーションの事例もあります。
■ 海外におけるゲーミフィケーション活用事例
では、海外におけるゲーミフィケーション活用は、どのようなものがあるのでしょうか?特徴的なものから、日本ではあまり見られない事例まで様々な事例について、シン先生に伺いました。
1.商業プラットフォーム利用
先述の通り、特にアメリカにおいては、商業プラットフォームの利用が一般的になっています。
IT企業やスタートアップ企業の集積地として有名なシリコンバレーでは、ゲーミフィケーションがサービスやプロダクトの一部として組み込まれていることが多いといいます。日本でもよく知られるGAFAMをはじめ、さまざまなサービスで活用事例が見られます。
例えば、シリコンバレー発の英語学習プラットフォーム「Speak(スピーク)」は、ゲーム要素を用いたマーケティングを行っています。レベルごとに獲得できる報酬があり、リアルイベントにつながっているのが特徴です。例えば、毎日学習を継続すると、シリコンバレーツアーに参加できるといったイベント施策を実施。ユーザーはミッションをクリアしてイベントに参加したいという動機から、長期間のレッスンチケットの購入が促されます。
また、アメリカ全土に目を向けると、顧客向けのマーケティングにとどまらず、採用プロセスにゲーミフィケーションを導入する事例も見られます。その好例として挙げられるのが、東海岸のペンシルベニア州発祥の企業である「Scavify(スカヴィファイ)」です。同社は、企業の人事研修やチームトレーニングの文脈において活用されるゲーミフィケーションサービスを提供しています。それが「Scavenger Hunt App」というアプリです。新入社員研修や社内におけるコミュニケーション能力・問題解決能力の向上を目的として、多様な業界で使用されています。ミッション達成型の体験が用意されており、参加者は与えられた課題をクリアしながらチームで協力してゴールを目指す仕組みです。
このように、ゲーミフィケーションは領域を超え、企業の日常的活動の中へと浸透しつつあります。
2.NPOや政策における活用
ゲーミフィケーションは、社会課題の啓発や解決へのアプローチとしても注目されています。
ドイツのNGO団体による寄付金を募集する広告「The Social Swipe」は、デジタルサイネージの画面上でクレジットカードをスワイプすると、画面内のパンが切り分けられるという視覚的演出によって、広告を見た人のアクションを促しています。単純な金銭的寄付を超えた体験を提供することで参加率向上を目指したゲーミフィケーション事例です。
社会課題は「難しそう」というイメージが先立ち、人々に避けられがちな話題です。だからこそ、何気なくアクセスしやすい環境を作るゲーミフィケーションが役立ちます。ゲーム要素が入口となることで、厄介な問題を考えるきっかけを与えることができます。
3.ビッグゲーム
最近韓国を中心に、盛り上がりを見せているのが「ビッグゲーム」というジャンルです。ビッグゲームは100人以上のプレイヤーが、都市などの広い範囲を舞台に、アプリなどの媒体を使って場所を移動しながらプレイします。プレイヤーは街を歩きながらミッションを遂行し、一定の時間内でクリアすることを目指します。
街中の建造物や、博物館といった現実の施設を利用する点が特徴で、地域活性化の目的で実施されることが多いです。
韓国ではUniquegood Company社が多様なビッグゲームを手がけ、活発に展開しています。プレイヤーは同社が提供する「Real World Platform」というアプリから、ゲームキットを手に入れてソウル市内のあらゆる場所でゲームを楽しむことができます。
地域経済の活性化だけでなく、その土地の歴史・文化を学習することにも役立つゲーミフィケーションです。
■ ゲーミフィケーションはどこへ向かうのか? 今後の課題と展望
もともと教育分野で多く活用されていたゲーミフィケーションですが、グローバルにおいてはより多様な社会課題と関連したコンテンツが増えてきています。例えば、難民・移民の課題や、気候変動の問題などにまつわるゲーミフィケーションの活用事例が見られます。また、都市全体を利用したゲーミフィケーションの取り組みや、博物館などの文化施設を使ったコンテンツも増えています。単発的だった取り組みが、テーマパーク型の施設へと発展している例もあります。今後は、IPとのコラボレーションなど、メディアミックス的な展開も多くなっていくと予想されます。
このように、ゲーミフィケーションの活用シーンは多様化し、拡張しています。日常生活の中で誰もがゲームに触れる機会が増えていると言えるでしょう。そうした状況において、考えなければならないのが「アクセシビリティ」の課題です。障がいがある人や高齢者、異なる言語話者など、さまざまな特性を持った人がプレイする可能性があります。文化の違いにも配慮する必要があります。シン先生は「これからのゲーミフィケーションには、あらゆるプレイヤーが楽しめる環境やコンテンツを実現することが求められる」と強調しました。
また、ゲーミフィケーションの普及にあたってもう一つの課題として「効果をどう評価するか」という問題もあります。今は各企業や団体、研究者それぞれが独自の基準を設けて効果を測っている状況ですが、それだけではゲーミフィケーションの長期的・継続的な効果を訴求するには不十分です。シン先生は「今後はゲーミフィケーションの開発側も研究者も、共通の評価基準を作る必要がある。ゲーミフィケーションの効果を可視化できるデータがあれば、比較研究も容易になる。産業においてもコンテンツの効果が説明できるようになれば、市場の拡大に寄与する」と指摘しました。
さらに、日本のゲーミフィケーション活用状況については、「ネットワーク形成が喫緊の課題」と指摘しました。「国内での研究が増え、大手ゲーム会社発の専業企業も登場し、ゲーミフィケーションを活用したい企業も増えている。土台はできているが、当事者同士のつながりが不足している」という課題を示しました。企業と研究団体の産学連携の事例が多く見られる欧米の状況と比べると、日本にはゲーミフィケーションを主題としたコミュニティが少ないです。シン先生は「今、取り組んでいる企業や団体は積極的に情報発信をしていくことが大事ではないか」と提言しました。
ゲーミフィケーションは、グローバルにおいて大きく発展し、人々の生活に深く浸透しつつあります。ゲームという枠組みを超えた新しいコンテンツが次々と登場し、その活用分野は多岐にわたっています。先述の課題を乗り越えるような仕組みが構築されれば、今後さらにゲーミフィケーション市場は発展していくと考えられます。これからもゲーミフィケーション市場のグローバル動向に注目です。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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