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【Conference Report 3】行政・企業・教育のエキスパートが語る、社会課題×ゲーミフィケーションの最前線
文責:マーケティング・コミュニケーション課
ゲーミフィケーションはビジネスの現場に留まらず社会課題の解決手段として注目されています。正攻法では解決できないさまざまな課題に、ゲーミフィケーションはどのようにアプローチできるのでしょうか。
11月に開催された「ゲーミフィケーション カンファレンス QUEST」で、トークセッション「社会課題 × ゲーミフィケーションのアプローチ」を実施。本セッションでは、街づくり、行政、教育といった分野において、ゲーミフィケーションを活用した社会課題解決を実践する有識者が集結。実際の事例を交えながら、ゲーミフィケーションが社会課題解決に寄与する可能性について語り合いました。
※2025年に開催した『ゲーミフィケーション カンファレンス QUEST』の様子はこちらよりご参照ください
【登壇者】
・前新潟県三条市副市長/一般社団法人新潟県eスポーツ連合顧問 上田 泰成 氏
・富士通株式会社 エンタープライズ戦略推進本部 クロスインダストリービジネス統括部
シニアマネージャー 池田 圭佑 氏
・国立大学法人 東京学芸大学 教育インキュベーション推進機構 准教授 荻上 健太郎 氏
・株式会社セガ エックスディー 取締役 執行役員COO 伊藤 真人
■ 環境問題の解決に市民を巻き込むには?
最初のトークテーマは、「環境問題×ゲーミフィケーション」。主に、川崎市の環境問題にまつわるプロジェクトについて、富士通の池田氏が紹介しました。
川崎市は政令指定都市の中でCO2排出量が最も多く、こうした課題を市民を巻き込んで解決する「Green Carb0n Club」というアプリを富士通と開発を行い、リリースしています。
最初は、ユーザーがエコアクションをすると、ポイントが溜まってサービスや商品に変換できるという「お得感」で市民の行動を促していましたが、継続性に課題がありました。そこで、セガ エックスディーと協力し「まちづくりゲーム」としてアップデートしました。ゲームを早く進めるためには実際に川崎の街でエコアクションをしてチケットを手に入れる必要があるという「リアルとゲームの連動」が特徴です。
ユーザー層が幅広いこともこのアプリの特徴です。リリースした当初は広報誌で宣伝していたため高齢な層が多かったものの、その後の商業施設でのイベントや川崎フロンターレとの連携によって多様なユーザー層の囲い込みに成功しています。
「子どもがゲームをやっていて、親が一緒にその場所に行くと、環境にいいスポット、例えば古新聞を回収しているスポットを発見するといった体験も生まれています」(池田氏)
ここで上田氏から「ユーザーエンゲージメントをいかに高めているか」という質問が投げかけられました。
これに対し池田氏は、現状を「試行錯誤の段階」としながらも、エンゲージメント向上のための具体的な施策を説明。具体的には、SNSを活用した運営側からの情報発信、ユーザーのモチベーションを高めるランクアップ制度の導入、およびUIの継続的な改善を通じて、エンゲージメント向上に努めていると述べました。
池田氏の話を踏まえて、伊藤は「環境の領域でいきなり大規模な社会実装を目指すのは、現実的ではない。熱量の高いユーザーを中心にじわじわと仲間を広げていくのが一つのやり方でしょう」と指摘しました。
■ 行政におけるゲーミフィケーションの活用
続いて、前新潟県三条市副市長/一般社団法人新潟県eスポーツ連合顧問の上田氏が行政におけるゲーミフィケーションの活用について紹介しました。上田氏は経済産業省時代、セガ エックスディーと協力してゲーミフィケーションの人材育成調査事業を行ってきました。
デジタル庁が掲げる「誰一人取り残さないデジタル化」に、ゲーミフィケーションの要素が生かせるのではないかという考えのもと、ゲーミフィケーションを活用してDX社会を推進する取り組みです。
上田氏は、行政組織特有の課題として「供給者目線になってしまうこと」を挙げ、「利用者目線でのUI/UXを意識したサービス提供には、ゲーミフィケーション、すなわちゲーム業界が持つサービスデザインの視点が役立つ」と説明しました。
これに対して伊藤から「なぜ利用者視点が抜けてしまうのか?」と問われると、上田氏は行政組織における「縦割り」の問題を指摘。課題のカテゴリごとに対応部門が分かれているという、組織構造上の問題が背景にあると解説しました。
課題を該当する分野ごとに分けて解決していくことは、ある意味合理的で、学問でもそういった形式が取られています。しかし、利用者からすると課題のカテゴリは関係なく、どんな課題も同じアプリで完結したいというニーズも多いのです。
上田氏は「デジタル化というのは、そういった分野の枠組みを一回壊して組み替えていく作業であって、そこにゲーミフィケーションが役立つ」と見解を述べました。
これに荻上氏も「ゲーミフィケーションは既存の枠組みを変えるための大きな役割を担っている」と同意しました。
「既存の枠を変えたり、ずらしたり、壊したりする最初の入口に、ゲーミフィケーションが持つ力はすごく大きいと思います。『改革』とか『破壊』ではなく、自然と、いつの間にか『あれ変わってるかも』という変化が訪れるのがゲーミフィケーション」(荻上氏)
また上田氏は、自身が新潟県三条市副市長を務めた際に実施した施策として、「新人職員を対象にしたeスポーツ大会」と「高齢化が進む自治体での認知症予防策」も紹介しました。
新人職員を対象にしたeスポーツ大会は、福利厚生の一環として実施し、組織の壁を超えた交流の活性化やメンタルケアに効果があったと言います。部署によっては横のつながりが少なく、新人が気軽に相談できる人がいないという課題があり、そういった壁を乗り越えるためにゲームを活用しました。
認知症予防策としては、高齢者向けに太鼓ゲームや脳トレを活用したeスポーツ体験会を計6回開催。参加者の90%以上が「とてもよかった」と回答するほど満足度の高いイベントとなりました。このイベントには、若者との交流という面もあり、地元の高校生がゲームのアシストをしている様子が紹介されました。上田氏がイベントの告知をしたところ、インスタグラムのDMで高校生自身から「手伝いたい」と申し出があったと言います。
「コミュニティを作ったあとも、運営する人がいなければ廃れてしまいます。その点このイベントは高校生が入れ替わりでサポート役を担ってくれるうえ、ランニングコストも高くないので持続的。比較的財政が厳しい自治体にも展開できるのではないでしょうか」(上田氏)
多世代交流や高齢者の居場所づくりといったさまざまな側面で、地域活性化に貢献していることを説明しました。
伊藤は、「ゲーミフィケーションは費用がかかるから自治体では難しいというイメージがあるかもしれませんが、そうではありません」と語り、課題を明確にさえできれば、三条市の事例のように限られたコストで実践できると強調しました。
■ 教育分野における「余白」の重要性
続いて、東京学芸大学の荻上氏が教育分野におけるゲーミフィケーションの活用について語りました。
荻上氏は、教育インキュベーション推進機構という組織に所属し、組織の枠組みを越境する取り組みを推進しています。具体的には、セガ エックスディーとの共同研究や、学生・教職員が共同で運営するWebマガジンなど、「大学」や「企業」の垣根を越えた実践に携わっています。
荻上氏は、教育領域に不足しがちな観点が「余白」だと指摘し、その「余白の創出」にゲーミフィケーションが役立つと説明しました。
「例えば、『総合的な探求の時間』という科目は本来、児童・生徒が課題を見つけ、教科の枠組みにとらわれない活動を行うものですが、実際には時間がないために先生が決めた課題をこなすだけになってしまうことも多い。ここに余白があれば、本来の学びを実現できるはずです。ゲーミフィケーションの持っている“柔らかさ”が余白の創出につながると思います」(荻上氏)
本来、学びには「遊び」が重要だと荻上氏。好きでワクワクすることのほうが、困難な状況でも学び続けられる原動力となります。しかし、今の教育の領域には、そういった余白や余裕が足りていないため、余白をつくるためにゲーミフィケーションの力を借りる必要があると指摘しました。
このように「教科の枠組みの中で正解を教える」だけではない教育を目指すとすると、教員の役割や評価制度はどのように変容すべきなのか。荻上氏は「実は通信簿は必須ではなく、学校ごとに決められる」と明かし、評価制度そのものを学校や地域ごとに再構築する余地があることを示唆しました。
荻上氏は「例えば川崎市のエコアクションのように、保護者や地域の方を巻き込みながら新しい評価制度を考えても面白いかもしれない」と言及。すると、池田氏もエコアクションのような目に見えない地域貢献をスコア化して、成績や就職活動に生かせるようにする「地域の信頼スコア」の議論をすでにしていると話し、ゲーミフィケーションを活用して、社会生活における新しい評価軸が生まれる可能性が垣間見えました。
ここまで3人の取り組みと意見を聞いた伊藤は、「(ゲーミフィケーションの導入には)万能の解決手段はなく、余白を作りながら、小さく少しずつ進めていくほかない」と提言しました。
■ ゲーミフィケーションによる社会実装の未来
最後に、登壇者3名がセッションを通じて得た学びと、今後の展望について語りました。
池田氏は、ゲーミフィケーションを活用した社会課題の解決において、「行政と民間の連携が大事」と改めて感じたと言います。
「行政の方々にどう民間の力を使っていただくかが課題です。我々企業が持つIT技術をうまく使うことによって、社会課題の解決に結びつくと考えています。荻上さんの言うように、学校や企業などの枠組みを超えた、共通の課題に向かった取り組みを、まずは川崎市のプロジェクトから推進していきます」(池田氏)
荻上氏は「皆さんの取り組みを聴いていて、最初に想定していた使い方ではない新たな活用法が見つかる、ということが本当に大事だと思った」と話し、「枠を外すこと」や「余白」の重要性を改めて強調しました。また、セッションのテーマである「社会課題」という言葉にもとらわれず、「気がついたら関わっている」というゲーミフィケーションの持つ力を社会実装していく必要性を訴えました。
最後に上田氏は、荻上氏の指摘を踏まえ、イノベーションや学びの多様化に繋がる「余白」の重要性を再認識したと語りました。そして、地方における課題解決にゲーミフィケーションを活用したいと述べました。
「社会課題が増えている中で、それを解決する人材が必要です。都会ではスタートアップがビジネスとして解決できている部分もありますが、地方では解くプレイヤーが少ないため、最終的に行政が担うことになり負担が増大しています。ゲーミフィケーションを使い、コストをかけず、楽しく、気づいたら課題解決していた、といった行動変容こそが、今後の人口減少時代に資するアプローチになっていくのではないでしょうか」(上田氏)
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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