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【カルビー】お菓子メーカーがなぜゲームを!? 「商品だけでは届かない層」のブランド愛を育てる戦略とは?
文責:マーケティング・コミュニケーション課
セガ エックスディーは「ついやりたくなる」ゲーミフィケーションのナレッジを生かし、さまざまな企業のサービス設計を支援してきました。カルビーが提供する箱庭シミュレーションゲーム「サクサク 掘れ掘れ CalbeeFarm」もその一つです。
お菓子メーカーであるカルビーが、なぜゲームという手法を選び、どのようにブランドのファンを育てているのか。
「おいしさ」以上の価値を届けるための戦略と仕掛けについて、カルビー株式会社 Calbee Future Labo ディレクターの松本 知之(マツモト トモユキ)さまに伺いました。
■ お菓子メーカーらしく「楽しい」施策を目指してゲーミフィケーションを導入
――「サクサク 掘れ掘れ CalbeeFarm」について教えてください。
松本知之さま(以下 松本):「サクサク 掘れ掘れ CalbeeFarm」は、カルビーの公式LINEからプレイできる箱庭シミュレーションゲーム(以下、箱庭ゲーム)です。
ゲームには、カルビーのキャラクターと世界観を表現した3つのエリア、「帯広地域の農場」「カルビータウン」「カルビーランド」が用意されています。ユーザーは、カルビーのキャラクターとともに農作物を収穫したり、アイテムを獲得して自分の農場をカスタマイズしたりできます。
セガ エックスディーが提供する『GameBox』というゲーム開発のためのサービスをベースに、当社のIPを組み合わせて開発しました。
――お菓子メーカーであるカルビーが、箱庭ゲームを展開する狙いは何でしょうか?
松本:まず、農業を楽しく身近に感じてほしいという想いがありました。カルビーはお菓子メーカーとしてさまざまな商品を発売しています。なかでもじゃがいもを使った商品が多く、日本のじゃがいもの総生産量の約2割を使用しています。実は原料調達の過程で農協や生産者と密に関わる、農業と近いビジネスなのです。農業と密接に関わるお菓子メーカーとして、野菜がどのようにできて、どのようにお菓子が作られているのかを伝えるべく、これまでもこうした農業とともにあるカルビーの姿勢を、さまざまな施策を通して発信してきました。
例えば、毎年恒例の「カルビー大収穫祭」では、カルビー商品を購入いただき、規定の点数を集めて応募いただいた方の中から、じゃがいも2kgが10万名に当たるキャンペーンを行っています。
よりお菓子メーカーらしく、楽しみながら農業を身近に感じてほしいという想いで箱庭ゲームというアプローチにたどり着きました。
また、新しい顧客層に向けたブランディングという意味でも、「ゲーム」という新しい入口が有効だと考えました。実はデータを見ると、3ヵ月に1回以上カルビー商品を購入してくださっているお客さまは約4,000万人。しかし裏を返せば、残りの6,000万人以上の方は「名前は知っているけれど、直近では買っていない」状態です。普段の生活の中で、カルビーのことを考える瞬間がほとんどない方々とも言えます。
さらに、これまではテレビCMを流して、店頭に商品を並べておけば、「モノ」としての良さを届けることができましたが、今の時代、ただ伝えるだけの従来のアプローチでは、もう振り向いてもらえなくなっています。
もちろん、新しいお菓子を開発してアプローチするのも大事ですが、お菓子だけではリーチできない層とも接点を持ちたい。そのためには、生活者が何に興味があるのかを捉え、私たちの方からその興味に合わせて近づいていった方がいいと考えました。
カルビーでは、お客さまの生活の中にリーチの範囲を広げていく取り組みを行っていて、雑貨や音楽を通した接点を広げています(下図)。
今回で言えば、ゲーム好きの若年層にゲームを通じてカルビーのキャラクターや世界観に親しんでもらうことで、愛着を深めてもらえたら、という狙いがあります。
――そうした取り組みに「ゲーミフィケーション」を活用することになったきっかけは?
松本:私自身がセガ エックスディーの伊藤さんが手がけた防災プログラムの体験に参加したことがきっかけです。そこで初めて「ゲーミフィケーション」という概念について理解し、丹念に体験設計されていることに驚きました。
私は長年マーケティングやプロモーションに関わる中で、商品のよいところを訴求する、というやり方でお客さまに価値を届けてきました。一方、ゲーミフィケーションではお客さまの心の動き一つひとつを丁寧に捉えて設計している。当社では「パッケージを開けた瞬間の香り」や「食べるストロークの感覚」など、プロダクト起点の体験はこれまでも緻密に設計していました。ただ、ゲームの設計と比較してみると「食べている最中にどう感じるか」「食べ終わった後にどう楽しんでもらえるか」という心の動きや文脈までは設計できていませんでした。
今の時代はより一層お客さまの視点に立って設計する必要があると感じ、このゲーミフィケーションの概念をぜひ取り入れたいと思ったわけです。
■ ユーザーの体験を綿密に設計し、カルビーの世界観を詰め込んだ
――「サクサク 掘れ掘れ CalbeeFarm」の開発にあたって、どのようなこだわりが盛り込まれたのでしょうか? 設計のポイントを教えてください。
松本:これまでアプローチが難しかった層にリーチするためには、従来のリアルイベントや商品を通じたキャンペーンとは異なる手法が求められました。このSNS時代においてLINEから手軽に遊んでいただけるという点は、重視したポイントの一つです。
ゲームの体験設計にあたっては、セガ エックスディーさんに「モチベーションサイクル」というゲームの設計手法を用いて、ユーザーの思考や行動のプロセスを綿密に設計していただきました。単に機能を作るのではなく、「収穫して喜ぶ」「素材を利用して料理や商品を作る」「別の種や料理のレシピが手に入り、次は違うものを作ってみたくなる」など、ユーザーがゲーム内でどう考え、どう動くのか……といった議論を重ねながら設計いただけたことは、ゲーム開発に関して素人の我々にとって大変助けになりました。
また、ゲーム内にはカルビーのさまざまなお菓子のパッケージに描かれているキャラクターを横断的に登場させています。特定商品に偏らせず、カルビー全体の世界観を大切にする設計にしています。
――キャラクターの表現にもかなりこだわられたとか。
松本: 実はここにも開発秘話がありまして。
パッケージに描かれているキャラクターの多くは、平面(2D)のイラストしか存在しなかったのです。つまり「後ろ姿」のデータがなかった。でも、ゲーム内でキャラクターが歩き回るには3Dモデルが必要です。そこでセガ エックスディーさんと一緒に「この子の背中は多分こうなっているはず」と想像力を働かせて、ゼロから3Dモデルを作り上げました。
結果、平面だったキャラクターたちが立体になり、テコテコと歩き回る姿を見て感動しました。IP(知的財産)としての魅力が、ゲーム化によって「拡張」された瞬間だと感じました。
――現時点では、どのような効果を感じていますか?
松本:2025年9月のリニューアルを経て、レベルのMAXが100から200に上がったのですが、すでに上限まで達成しているユーザーもいます。
お客様相談室に「レベルがMAXに到達したが、この後どうしたらいいのか」といった声が届くなど、熱心なプレイヤーが一定数いることが確認できました。移動時間などの隙間時間に手軽にプレイでき、一度始めると夢中になってしまうという、箱庭ゲームの特性がユーザーの満足度につながっていると感じています。
リニューアル前後でみると、ユーザー数(MAU)が約3.8倍に増加しています。
ただ、狙いの一つである若年層へのアプローチがどれくらい実現できているのかは、データを取れていないので、現状はまだ未知数です。今後、アンケート機能などを活用して熱心なユーザーの属性やニーズを把握しながら、満足度を上げていく仕掛けが必要だと考えています。
また、社内からの反応も良好で、社員のモチベーション向上にもつながっています。例えば、当社ではカルビーのキャラクターがデザインされた子ども服や雑貨を展開しているんです。それと同様に、社員自身のお子さんがゲームを楽しんでいる姿を見ることで、自社への誇りを感じるなど、良い影響も出ています。
――「サクサク 掘れ掘れ CalbeeFarm」は、将来的にどのような展開を見据えていますか?
松本: カルビーでは、アプリ「ルビープログラム」を提供しています。商品パッケージを折りたたんで撮影する「折りパケ」というアクションによってルビー(ポイント)を貯めることができ、カルビーのファンの方がより楽しめる体験として還元できるプログラムです。将来的には、このルビープログラムIDとの連携を目指しています。毎年実施しているじゃがいも2kgが当たるキャンペーン「カルビー大収穫祭」も、このルビーを貯めることで応募することができ、とてもご好評いただいています。
「サクサク 掘れ掘れ CalbeeFarm」を通してカルビーを好きになってくれた方が、カルビーのお菓子を買い、その先もルビープログラムを通して定着してくれたらうれしいです。
さらに次のステップとして目指したいのは、ゲームからリアルでの体験につなげること。例えば、「サクサク 掘れ掘れ CalbeeFarm」内で育てた野菜が実際に家に届いたり、ユーザーが農家さんを応援したりといった体験ができたら魅力的です。
伊藤さん(セガ エックスディー)とは、以前から農業(アグリカルチャー)をエンタテインメントにして広げていく「アグリテインメント」の実現について議論していました。ゲーミフィケーションを活用すれば、多くの方に農家や農業地域を応援していただける、社会的に役に立つ取り組みを実現できるのではないかと考えています。
■ ゲーミフィケーションを導入する目的を逃さないことが重要
――今回の当社(セガ エックスディー)との取り組みにおいて、よかった点はどのようなことでしょうか。
松本:ゲームの設計について、ユーザーがどう感じて、その次にどうアクションするのか……といった想定を非常に緻密にされていた点には感動しました。もちろんマーケティングにおいてもお客さまの体験設計を考えますが、細かい点まで本当に緻密にやれているかというと、微妙なところです。個人的にもとても勉強になりました。
また、担当の松澤さんが当社の商品を本当に好きで、愛情を持って関わってくださっていることが伝わってきました。ディスカッションを重ねるにあたっても心地よかったです。
――ゲーミフィケーションを取り入れた施策を実施するにあたり、企業が意識するべきポイントはありますか?
松本:われわれも試行錯誤の中にあってアドバイスできるほどではありませんが、企業としての目的をはっきりさせることが大事だと考えています。
ゲーミフィケーションを導入することを目的とせず、あくまで解決手段としてのゲーミフィケーションという位置づけにするべき。お客さまに対してどういう価値を提供したいのかといった重要な視点が抜け落ちてしまっては本末転倒です。
当社でも、ゲームの位置付けはかなり丁寧に議論しました。今回は、ルビープログラムがお菓子以外のタッチポイントを持つためにゲームを展開し、そこで商品を食べるきっかけが生まれ、ルビープログラムの利用につながるといったことを想定しました。こうした目的の部分については、何度も議論を重ねました。セガ エックスディーさんとは、具体的なゲーム開発だけではなく、そういった将来の設計までディスカッションできるのがよかったです。
――最後に、ゲーミフィケーションの導入を考えている企業の担当者に向けてメッセージをお願いします。
松本:今は、ユーザーが自ら創造し、発信できる時代です。デザインや音楽なども個人で制作し、SNSにアップすれば簡単に発表できてしまう。
このようにお客さまがコンテンツを作れる時代において、メーカー側も従来と同じように商品を作って訴求するだけでは、お客さまに届かなくなっていくと考えられます。「かっぱえびせんって美味しいよ、買ってください!」という一方的な訴求をする時代は終わったと思います。
なので、メーカー側がお客さまに近寄っていくことが必要だと思うのです。それができるのが、IPやゲームコンテンツを活用したアプローチだと考えています。実際にお客さまに近寄ってみると、予期せぬ面白い反応が生まれることがあります。もしかしたらそこからお客さま自身がメーカーのコンテンツを創造してくれるかもしれません。
当社ではこれまでの枠にとらわれない新たな発想のきっかけとして、これからもゲーミフィケーションを活用したいと思っています。
【セガ エックスディーのプランナーが語る!】「サクサク 掘れ掘れ CalbeeFarm」に活用したゲーミフィケーション
当社担当プランナーは、「サクサク 掘れ掘れ CalbeeFarm」の魅力について以下のように語ります。
「サクサク 掘れ掘れ CalbeeFarm」は、カルビーの世界観を3つのエリア(前述)にギュッと詰め込んだ遊園地だと考えています。ユーザーは、カルビーの商品を自分の箱庭へ自由に配置して、カルビーのキャラクターを歩かせることができます。また、自分なりのカスタマイズができる点とカルビーさんへの愛を詰め込むことができる点がこのゲームの魅力であり、ブランドへの愛着を醸成するカギになっていると考えています。
では、「サクサク 掘れ掘れ CalbeeFarm」には、どのようなゲーミフィケーション要素が活用されているのでしょうか。
「サクサク 掘れ掘れ CalbeeFarm」では、ゲームの鉄板ジャンルである「箱庭ゲーム」を採用。それに加え、丁寧に繰り返し利用したくなる体験デザインの設計を行っています。
今回は、ゲーミフィケーションのポイントとして、それら「箱庭ゲームの仕組み」と「粘着性のある体験デザイン」の2点について解説します。
● ゲームの鉄板ジャンル「箱庭ゲーム」の活用
「サクサク 掘れ掘れ CalbeeFarm」では、箱庭ゲームという鉄板ゲームを用いて、以下のゲーミフィケーション要素を組み込んだ体験設計を行いました。
箱庭ゲームで人が夢中になる主なメカニズムには以下のようなものがあります。
・保存欲求(自分だけの場所を作る)
人は、自分が時間や労力をかけて作ったものや、自分好みにカスタマイズしたものに対して強い愛着を抱きます。これは、IKEA効果とも呼ばれ、行動を継続させる強力な要因になります。箱庭ゲームで自分だけの農場を作り込むプロセスは、この愛着を深める体験そのものであり、「保存欲求」を強く刺激します。「明日も様子を見に来たい」という継続意欲が生まれ、習慣化につながります。
・回避欲求(ログインボーナス)
人はすでに持っているものや、積み上げてきた成果を失うことに強い抵抗感を覚えます。この“損失回避”の心理は、行動を促す強い原動力になります。箱庭ゲームにおいても、連続でログインすることによって獲得できるはずのボーナスが、途切れてしまうことで受け取れなくなる状況に対し「もったいない」という感情が生まれます。この感情が、「回避欲求」を刺激し、「せっかくここまで続けたのだから」と、毎日ゲームを訪れる習慣づけにつながります。
・達成欲求(レベルアップと成長)
作物を収穫し、経験値を貯めてレベルアップしていくプロセスは、ユーザーにわかりやすく“進歩の実感”を与え、「達成欲求」を満たします。こうした小さな成功体験の積み重ねは、ユーザーの自己効力感を高め、「もっと続けたい」「次はどんな成長があるだろう」という前向きな関与を生み出し、継続性につながります。
● 繰り返し利用したくなる粘着性のある体験デザイン
ゲーミフィケーションが得意とするのは、ユーザーを単発の「体験」で終わらせず、継続的な「習慣」へと導く粘着性(スティッキネス)のある体験をつくることです。そのためには、単発の面白さだけではなく、やり続けたくなる(習慣UX)ための体験づくりが重要です。
やり続けたくなる体験を作るためには、繰り返し利用したくなる体験をデザインする必要があります。当社では、ゲームデザインの世界で用いられるモチベーションの設計手法に、心理学的な行動デザイン手法を組み合わせて、やり続けたくなる体験として「モチベーションサイクル」を設計します。
モチベーションサイクルは、モチベーションを軸にした体験を循環させる仕組みを指し、それらを設計することにより使い続けたくなる動機付けを行います。これを当社では「リピータージャーニー」と呼びます。商品・サービスのユーザー体験を設計することにより、ブランドへの愛着(エンゲージメント)やLTV(顧客生涯価値)向上を目指します。
■ 関連URL
・カルビー公式LINE:https://line.me/R/ti/p/@calbee_jp
※「サクサク 掘れ掘れ CalbeeFarm」はカルビー公式LINEよりプレイ可能です
・サクサク 掘れ掘れ CalbeeFarm 公式オンラインショップ:https://calbeefarm.calbee.jp/
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