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【Conference Report 1】AI時代にこそ求められる「ゲーミフィケーション」。専門家が語る現在地と未来
文責:マーケティング・コミュニケーション課
DXやAIの導入が進み、効率化や合理化が重視される現代。ゲームの要素を非ゲーム分野に活用する「ゲーミフィケーション」が、再び注目が高まっています。産業界で2010年頃に流行した考え方が、なぜ今また脚光を浴びているのでしょうか。
2025年11月に開催された『ゲーミフィケーション カンファレンス QUEST』のセッションでは、ゲーミフィケーションに精通する学問、業界、産業におけるリーダーが集い、ゲーミフィケーションの現在地と未来、そして実践の勘所が議論されました。本記事では、その様子をお届けします。
※2025年に開催した『ゲーミフィケーション カンファレンス QUEST』の様子はこちらよりご参照ください
【登壇者】
・東京大学大学院 情報学環 教授 藤本 徹 氏
・遊びと学び研究所 ゲーミフィケーションデザイナーLv.99 岸本 好弘(きっしー)氏
・ ゲーミフィケーション研究所 所長/株式会社セガ エックスディー 代表取締役 社長執行役員CEO 谷 英高
■ ゲーミフィケーションの国内認知度はまだまだ。活用可能性は?
東京大学 情報学環の藤本教授は、2019年に設立したゲーム学習論を専門とする研究室で、シリアスゲームやゲーミフィケーションの教育・学習分野における活用などを研究しています。その立場から、学術分野におけるゲーミフィケーションの位置づけについて紹介しました。
「ゲームを社会課題の解決に活用しようという動きは、以前からあった」と藤本教授は指摘します。例えば、最も古くから知られている理論は「ゲーム理論」です。人間の社会活動をゲームとして捉え、数理的に明らかにしていこうとする分野です。
その後、ゲーミフィケーションという言葉が注目されるようになったのは、2010年頃。2000年代に入ってから、アメリカを中心にシリアスゲームが登場し、研究活動が広まっていきました。
「ゲーミフィケーションという呼び方が広まる前は『教室でゲームを使って学ぶ』ような取り組みが中心でした。その後、人がゲームに夢中になる要素を使って、さまざまなサービス・活動をデザインする取り組み全般が『ゲーミフィケーション』と呼ばれる概念として一般に広がりました」(藤本教授)
遊びと学び研究所ゲーミフィケーションデザイナーLv.99の岸本(きっしー)氏は、自身の考えるゲームフィケーションの定義を以下のように紹介しました。
「身の回りの課題にゲーム要素を取り入れることで、人を楽しくやる気にさせ、行動変容を促すのがゲーミフィケーション。楽しいを使ったモチベーションメソッドです」(岸本氏)
岸本氏は、ゲーミフィケーションを活用することで「人の行動が変わる」ことが大事なポイントだと強調します。実際、ゲーミフィケーションは人の行動変容を促す必要がある領域で多く活用されています。国内のゲーミフィケーションの主な活用分野は、1位が教育、次に健康で、3位は社会課題の解決(地域創生など)だと岸本氏は話します。
続いて、ゲーミフィケーション研究所 所長 兼 セガ エックスディー 代表取締役 社長執行役員CEOの谷は、日本を代表するゲーミフィケーション企業として、国内市場について説明しました。
調査によると、日本のゲーミフィケーション市場規模は2030年までに約4倍に成長すると予想されています。海外と比べると市場規模も認知度も小さいものの、活用が盛んな業界もあります。
「ゲーミフィケーションの国内認知度は16%とまだまだ低い。一方、アプリの運営をしている事業者に限ると、約半数がゲーミフィケーションを活用しているといった調査結果もあります」(谷)
谷は、今後ビジネスの現場での活用が広がることへ期待を寄せていると言います。昨今のビジネスにおいて重視されているパフォーマンス向上や業務効率化、DXといった取り組みは、「重要な一方で人の感情を置き去りにしがちではないか」と谷。ITツールを導入しただけでは、現場でなかなか活用されないといった問題もあります。
そこで、谷は「行動変容を起こしていく一つの仕組みとして、ゲーミフィケーションがより活用されることを期待したい」と話しました。
■ ゲーミフィケーションを企業が取り入れるには?
続いて、3名によるパネルディスカッションが行われました。最初は、ゲーミフィケーションの定義をどう捉えているのかが議論されました。
藤本教授は「学術的な定義としては『ゲーム以外のことにゲームの要素を取り入れる』ことだが、これは狭義の定義。広い意味では、学習や研修にゲームを取り入れるといった取り組みもゲーミフィケーションに含まれる」と説明しました。よって、「ゲームを社会のさまざまな場面に取り入れ、課題解決に生かす」試み全般が、ゲーミフィケーションとして捉えられます。
一方、岸本氏は「遊び心を持つ」ことがゲーミフィケーションの重要な要素だと考えると言います。「遊び心は、効率化・合理化の真逆なので、(今の世の中に)本当に刺さらない。無駄なことしかやってないと思われるからです。でも、これからはそういった『遊び心』を取り入れた組織が生き残っていくでしょう」(岸本氏)
岸本氏は、近年のAIの台頭によって人間の「遊び心」の重要性が増していることを強調しました。「『AIにどうやって勝つべきか』という話題が増えたが、ゲーミフィケーションの遊び心こそがAIに代替されないイノベーションを生み出す」と語りました。遊び心は、生きづらい時代をどう生きるか、自分で考えて工夫する際にも役立ちます。「ウェルビーイングともつながる考え方」だと岸本氏は言います。
この考え方には谷も同意。「気持ちが乗らないことも、遊び心を持って乗り越えていける。セガ エックスディーとしては、事業者を支援する立場としてそれをノウハウに落として、人の感情を揺さぶるゲームやエンタテインメントをいかにビジネスへ落とし込んでいくかが、ゲーミフィケーションを活用するうえで重要だと考えている」と説明しました。
ちなみに、ゲーミフィケーションに近い言葉として「ナッジ理論」「モチベーション理論」といったキーワードもあります。これらの違いは簡単に言えば、「研究分野の違い」だと藤本教授は説明します。
ナッジは経済学、モチベーション理論は心理学の分野で主に研究されています。その中で、ゲーミフィケーションは「ゲームで取り入れられる手法を他に活用する」という発想を中心に、手法を開発しているのが特徴です。
とはいえ、人のモチベーションに注目している点では共通しており、互いの研究や事例を参照することも多く、セガ エックスディーでもナッジの要素も活用し、フレームワーク化しているといいます。
次に、「ゲーミフィケーションを企業が取り入れるには」というテーマで議論がなされました。ゲーミフィケーションをサービスや社内活動に取り入れる企業は徐々に増えているが、専門家たちはどのような視点が必要だと考えているのでしょうか。
まず藤本教授は、「楽しく試行錯誤すること」が重要だと指摘します。ゲームデザイナーは、制作したゲームが面白くないと感じたら作り直し、そのサイクルを回すことで徐々に完成度を高めていきます。ゲーミフィケーションを導入する際も同様に、繰り返し修正するプロセスが必要です。「ワクワクしながら楽しんで試行錯誤してほしい。『ゲーム要素さえ取り入れればうまくいく』と思わないことが大事です」と提言しました。
岸本氏も、「取り入れたらすぐに効果が出るものではない」と話し、即効性を期待しすぎないことが大事だと言います。
また、谷は、ゲーミフィケーションの「導入自体」が目的にならないように意識することの重要性を指摘します。
セガ エックスディーではクライアントから「この機能を付けてほしい」と相談を受けることが多いですが、実際には特定の機能が重要だとは限らない。谷は「ゴールはユーザーに価値ある体験を提供すること。その手段としてゲーミフィケーションがあることを忘れてはいけない」と語りました。
さらに、ゲーミフィケーションの注意点として「人の弱い部分を利用して『ハメる』ことができてしまう」と岸本氏。ユーザーに余計なお金や時間を使わせたり、悪質な価値観を植え付けたりすることもできてしまいます。
ゲーミフィケーションを活用して仕組みやサービスを開発する立場にある人に向けて、道徳的なデザインを意識するように喚起しました。
■ ゲーミフィケーションの未来
最後に、ゲーミフィケーションの未来をどのように見据えているのか、3名それぞれが語りました。
藤本教授は、現状のゲーミフィケーションに対する考え方の中には「ポイントやランキングを付ければモチベーションが上がるはずだ」という偏見があるが、「それは誤り」だと指摘します。人それぞれ好みのゲームが違うように、競争だけがゲームの要素ではありません。
「個別のニーズに対応したゲーム要素を入れることができれば、さらにゲーミフィケーションの効果は上がるはず。今後、より研究が進めば、個人の『こう生きたい』をサポートできるようになり、ウェルビーイングにもつながるのではないでしょうか。みんなのハッピーな生き方に結びつく研究ができたらと思います」(藤本教授)
岸本氏は「遊び」と「仕事や勉強」を分けようとする旧来的な風潮に疑問を呈します。
「『遊んでいないで勉強しろ』と言われるが、本来は遊び心と勉強・仕事は相性がいいもの。勉強や仕事の中で、どのようにゲームフィケーションを取り入れたらモチベーションがあがるのか、皆さんもぜひ考えてみてほしい。皆さんがポジティブに幸せに生きていけるような考え方を広めていきたいです」(岸本氏)
最後に、谷からゲーミフィケーションの活用分野を拡大していきたいという意気込みが語られました。
「ゲームは人々の心を動かし、広く受け入れられてきました。DXのような新しい取り組みなど、『やらされ』になりがちなものを浸透させるときに役立つのがゲーミフィケーションだと思います。ゲーミフィケーションの活用できる分野や業界はもっと広いはず。医療や環境など、まだまだゲーミフィケーションが入り込めていない領域にも広げていけたらと思います」(谷)
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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